波乱の時代

(以下、本文)



波乱の時代(上)

波乱の時代(上)

波乱の時代(下)

波乱の時代(下)



「これまでの世界」
冷戦終結後、世界のほぼ全ての国で中央計画経済が放棄され、市場経済が採用された。そして、世界各地で新たに市場競争をとりいれるようになった経済に、五億人の労働者が流入した。競争の激化によって世界的にインフレ率が驚くほど低下して(競争が進めば製品のイノベーションが進むため、モノの単価が下がっていく(=デフレになる))、金融引き締めとグローバル化によってそれ以前に確立していたインフレ率低下傾向に拍車がかかった。
インフレ率が低下する中で長期金利が幅広い地域で低下したことから(インフレ率が低下する=将来お金の価値が下がる可能性が減少する=長期でお金を持つリスクが減少する=長期金利が低下する)、資産価格が急激に上昇することになった(ここでいう資産価格とはモノの価格というよりも、株式の価格であり、長期金利が低下する中で投資が貯蓄よりも、市場に回るようになったことを意味している)。
こうした資産を金融仲介機関が購入した結果、流動性が大幅に増加した。投資銀行、買収ファンド、ヘッジファンド、年金基金には巨額の投資があふれていた。市場経済は社会の貯蓄を生産的な投資に振り向けていく点で、金融仲介機関の活動に大きく依存している。



サブプライムの基本的な問題」
サブプライム問題は、世界的にリスクが割安にふれすぎていたことが基本的な問題であった。投資家はリターンをわずかに高めるために、はるかに高いリスクを受け入れていたのだ。



「現在の問題ー世界資本主義の最大の弱点」
経済的報酬が公正に配分されていないときわめて多くの人が感じていることである。



「今後の世界」
今後、先進国ではベビーブーム世代の引退に伴う巨額の財政負担という避けがたい事態に備える動きが、ほとんど進んでいない。危機が解決したときに現れてくる世界は、経済という面でみて、私たちが慣れしたしむようになってきた世界とは大きく違っているのではないかと思う。
深刻な信用危機は過去にデフレをもたらしてきた。デフレの時期には経済活動はせいぜいのところ、極端に悪くないといえる程度にしか回復せず、現金が王様であり、財も資産も安い。だが、わたしの見方では、いまあらわれてきたのはこういう状況ではない。今では世界的に穏やかなインフレが戻っている。
今後は、冷戦の終結によりこれまで続いたディスインフレ圧力はその性格上、消えていくことになる。
現在、新興国で何億人の人たちが乳製品と食肉を買えるようになった。こうした食料の生産のために、穀物の需要が増加しているのだ。そして、耕地を急激に増やすことはできないので、穀物価格が急騰している。残念なことだが、穀物の「不足」をさらに激化させる要因として、国内消費者が支払う食料価格の上昇に歯止めをかけようと、新興国の多くが価格管理に走っている。輸出を禁止した新興国も多く、今後の見通しがさらに暗くなった。それらの状況はさらにインフレを煽ることになるだろう。
インフレは全体として、信用収縮がもたらす世界経済の減速のために抑えられるであろう。だが、これを小康状態と表現できるにしても、長くは続かないだろう。インフレが戻ってきている。どちらかといえば、私が一年前に予想したよりも早く戻ってきているのである。インフレ圧力が幅広い分野にあらわれてきており、これが手に負えなくなるのを防ぐことが今後、世界各国の中央分野にとって主要な課題になるだろう。
アメリカ国債利回りはときに10%を伺う展開になり、株式・不動産などの収益性資産の利回りは、今後20年には過去20年より低くなるだろう。バブルが膨らむのは、信用がありあまっていて、長期金利が低い時期である。こうした状況には今後も戻らないだろう。