察知力


(以下本文)


察知力 (幻冬舎新書)

察知力 (幻冬舎新書)

  • ゴールを決めたり、イメージ通り、もしくはそれ以上のプレーができたとしても、その直後には次のことを考えている。自分のコンディション、味方の動き、相手の動向を察知しながら、何をすべきか。もっといいプレーをするため、勝利のためには何をすべきかと頭を巡らせている。
  • 中3になるとレギュラーメンバーに選ばれた。でも、だんだん先発から外されていく。僕は「なんでだよ。俺のほうが巧いのに」と不満に思っていた。しかし、試合のメンバーには選ばれない。チームは全日本クラブジュニアユース大会で優勝したけど、僕はふてくされたままだった。年末にある全国大会の地区予選で敗退し、チームは秋に解散。中学卒業後ユースチームへあがるメンバーにも、僕は選ばれなかった。僕がユースチームへ上がれなかったのは、背が小さかったからだと言われているけれど、本当の理由はそんなことじゃなかった。中3になった僕は自分が試合に出られることがうれしくて、自分のやりたいプレーばかりをやっていた。いい気になっていたんだよね。個人技ばかりで、チームのサッカーを考えていなかった。「なぜ外されてしまったのか?」と考えなくちゃいけなかったのに、原因を考えることもせず、僕はただ苛立っていた。そんな僕に対して、コーチはなにも言わなかった。きっと、自分で原因に気が付かなければ意味がないからだ。
  • 自主練習も、ただやるだけじゃなくて、テーマを設定して、「今週はこういうことができるまでやろう」という風に順序だててやった。努力というよりも、そうやってテーマを作ってやったほうが楽しいから。一つのテーマをクリアしたら、次のテーマという風に。ただ、漠然とやるよりも、僕にとってはそのやり方がずっとおもしろい。ロールプレイングのゲームをやるのと似た感覚かもしれない。
  • 自分の思うようにはいかない現実を不満に思っていても、いいことはなにもないから。
  • ただがむしゃらに朝練習や真っ暗になるまで自主練習をやればいいってことじゃない。大事なのは常に未来を察知して、自分には何が足りなくて、何が必要なのか、危機を察知して準備すること。
  • 「家族はスコットランドにいるの?」と聞かれたら、以前ならイエスかノーかしか返事しなかったけれど、今では「4歳の子供がいるんだ。君は子供がいるのか?」といった具合に、話題を広げられるようにもなった。取材でカメラマンに出会えば、「どんな風にプロになったのか?」「普段はどんな写真を撮っているのか?」と知りたいと思うし、同じ年頃の子供がいると知ったら、「不規則な生活の中で、いつ子供と食事しているの?」と聞いたり。当たり前のことかもしれないけれど、マリノス時代の僕を知っている人からすれば、驚くほどの変化だと思う。他人に興味を持つことで、色んな人の経験を知ることができ、自分にフィードバックできるものを発見することもある。どんな仕事をしている人であっても、その人の持つ「経験」は貴重な財産だから。
  • 桐光学園の2年生のとき、サッカー部のメンタルトレーナーの先生から勧められて「サッカーノート」を書くようになり、それは10年以上経った現在も続けている。試合前に、試合でのテーマ、何を意識してプレーすべきかを書く。そして試合が終わった後、試合を振り返り、試合の感想から始まって、攻撃面でのよかったところ・悪かったところ、守備面でのプラス・マイナス、僕個人のことだけでなく、チーム全体のことなお、気が付いたことはなんでも書いた。チームメイトはもちろん、気になった相手選手についても書いた。明日からの練習で、やらなくちゃいけないこと、補わなくちゃいけないことについても。どんな練習をすれば、足りない点をのばせるのか?など、いろいろ考えて書きまくった。書くという作業をすることで、自分の気持ちや考えを整理できる。それを繰り返すうちに、自分のことを客観的に見つめることが出来るようにもなった。ノートを書くことで常に落ち着けるし、過去の自分の歩みが綴られているから、時間が経ってからそれを読むと、いろんなことを再発見できる。
  • 節目、節目には、短期、中期、長期という形での目標も、サッカーノートに書いた。大きな目標を掲げるためだけだと、そこへたどり着くのは難しいと思う。先を見つつも、足元をしっかり見極めていかないと、空気の変化や現実を見失ってしまう。それで、僕は日々を過ごす中で、小さな課題を設定し、それをクリアし、クリアできたら次の課題を目指すようにしている。ハードルをひとつずつクリアする感じだ。そのハードルをどんなものにし、どういう状態で立てるか、それを想定するために必要なものが、目標を設定することだと思う。もちろん、予定通りにことは運ばない。
  • フリーキックに限らず、どんなプレーでも、ただ漠然とトレーニングするだけじゃなく、試合の状況をイメージし、様々なシチュエーション、相手のこと、そして自分のコンディションなどを考え、今、必要なことを選択し、練習する。
  • 違う文化圏で受け入れられるには自分から飛び込むしかない。馴染もうとする努力をしなければ、受け入れはしないだろう。
  • ただし、このときひとつ注意しなけちゃいけないのは、次のステップ、次のステップへと気持ちがはやるあまりに、今までやってきたことへの意識が薄くなってしまうこと。そうなると、せっかく築いてきた力も崩れてしまう怖さがある。だから、今までやってきたこと、と今できることをしっかりとやったうえで、それに肉づけをするイメージで、次のことへ挑戦しようと考えた。
  • ただし、「ガムシャラにやる」だけでは足りない。「先を想定し、課題を見つけて、考える」
  • 出場数やゴール数、立ったステージの高さで、成功かどうかは語れない。10年前に掲げた目標や、子供のころの夢が叶えば、成功というわけではない。目標や夢は、一つじゃない。現状を察知し、軌道修正を何度も繰り返してもいいはず。どんな環境や立場であっても、100%の力で戦うことが成功へつながる。厳しい現実のなかで、自分を知り、懸命に生きることが大事なんだ。今の自分にできることを、手を抜くことをやった、という実感を持てる毎日を過ごすこと。簡単そうに見えて、これが難しい。なぜなら人には甘えがあるから。「これでいいだろう」と思ってしまった瞬間。僕はそれが怖い。なりたい自分になるため、100%で生きることが出来れば成功だと思う。成功か失敗かなんて、誰にもわからないし、誰にも決められない。
  • いい気になってレギュラーから外された中3のとき、監督はもちろん、コーチも僕に声をかけなかった。僕は何も考えず、ただ、ふさくれていたから。そのときの指導者は、声をかけないことで「自分で考えろ」というメッセージを僕に送ってくれていた。そのことを「ありがたかった」と後に思った。