人は仕事で磨かれる

人は仕事で磨かれる

人は仕事で磨かれる


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(以下、内容)



自分が退任するときぐらい、花道を美しく飾ってもよかったんじゃないか。そう思わないでもないんです。きれいな花道も作ろうと思えば作れたかもしれません。減損会計の早期適用もせず黒字決算を行っていれば、少なくともきれいな花道を手を振りながら去ることができた。でも、そもそも私はそんなものに興味がない。やっぱり人には役目というものがあります。私の場合はさしずめ、伊藤忠にとって考えられるすべての膿を掻き出すことだった。だから、減損会計の早期適用は、私の「掃除屋」としての最後の仕事だったと思っているのです。



私個人がどう思われるかはあまり考えていません。



自分の人生なんてたかが知れている。社長を辞めたらただの小父さんだ。格好つけたってしょうがない。



やはり誠実さと言行一致なんです。絶対に裏切らないこと。言ったことは必ず実行に移す。しかも早く行動する。たとえば「一回、わが社の人間をお宅にお邪魔させます」と言ったら、三日後には行くように指示します。一週間後では駄目。三日以内です。そうすると相手は非常に強い印象を受ける。丹羽という男は、こんなに早くアクションを取ってくれるのかと、それだけで信用してくれるんです。



そもそも黒塗りの車で送り迎えなんていう生活をしていたら、世間の常識からどんどんずれてしまいます。私はそのほうが怖い。もちろん、満員電車で突かれたり雨傘で冷たい思いをするのは誰だって腹も立つし、不愉快です。運転手つきの車のほうが居心地はいいでしょう。でも社員はみんな満員電車に揺られて通勤しているんです。その目線からずれてはいけない。だから、社長が電車通勤しているからといってマスコミに騒がれるのは、こちらからしてみれば「ほおっておいてくれ」と言いたい位です。



私がこれまでの自分の人生を振り返ってみて思うのは、絶対に読書を欠かさなかったことです。これまでの何十年という間の読書の蓄積は、人に負けないものだと思っています。そして、読んだ人と読んでいない人との差は、そう一朝一夕には埋められない。これまで読書の習慣のなかった人が、急に読書をしようと思い立ったとしても、よほどの覚悟をしないと難しいでしょう。



ビジネスの世界では、自分の評価など何の足しにもならないということです。たとえば、自分が100点満点の仕事をした場合、自己評価というのは、とかく150点くらいになりがちです。では他人の評価はどうかというと、せいぜい7、80点くらいのものでしょう。自分で自分を評価する人はそれを不満に思い、「会社は俺を理解していない」「あの上司が悪いんだ」と考えてしまうようになるのです。